2016年6月5日、小田実の文学碑とモニュメントが兵庫県芦屋市特別養護老人ホーム「あしや喜楽苑」の一角に建立されました。
「人」の字形をモチーフにしたモニュメント(高さ1.1メートル、横1.4メートル)には、
「古今東西 人間みなチョボチョボや 小田実」
と銘打たれ、横に建てられた文学碑には、著書やベ平連でのベトナム反戦運動が紹介されています。
(阪神電車芦屋駅から徒歩15分)

以下、小田実さんの「人生の同行者」である夫人の玄順恵さんの除幕式での挨拶をご紹介します。


ごあいさつ
玄 順恵      

 この度、特別養護老人ホーム「あしや喜楽苑」の敷地の一角に、「小田実の文学碑」を建てるご縁をいただきました。「あしや喜楽苑」とは1995年、阪神淡路大震災直後に、作家が立ち上げた「市民救援基金」運動以来のお付き合いです。
 その間、「福祉は文化だ」をモットーに旧来の日本型福祉のありようを大きく変える活動をなさった理事長の市川禮子さんには多大なお世話になりました。
「市民の意見30・関西」の例会では、特別講師として「福祉と9条」についてお話をいただいたり、また「日独平和フォーラム」の活動のひとつとして、ドイツの若者たちが「良心的兵役拒否」の奉仕活動をする場に「喜楽苑」を提供して下さいました。
 ドイツ青年たちの「喜楽苑」での活動は、その後の彼らの進路に大きな影響を与えています。
 ある学生は、その経験から、ドイツの福祉施設で働くようになったり、その他、国際関係の研究者をめざすなど、多方面におよんでいます。
 芦屋川の河口に位置する「あしや喜楽苑」は、北に六甲の山脈、南に大阪湾と瀬戸内海を抱く芦屋浜にあって、作家の仕事部屋から眺める西宮浜ともつながっています。
 古代には「遣唐使」、近世には「朝鮮通信使」なども行き交った大陸との海上要衝地点でもありました。
 世界的視野で文学や市民運動、平和運動をつづけてきた作家は、何よりも人間どうしが尊重、敬信しあうことを大切にしてきました。そんな人と人とがささえ合う姿をイメージしてデザインした「文学碑」の完成を祝い、ささやかな除幕式と記念講演会を催します。
2016年6月5日     




2015年7月20日、鶴見俊輔さんが亡くなられました。
2010年、体調もおもわしくないなか、小田実全集の監修者を引き受けてくださいました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

本サイトの「監修のことば」に鶴見俊輔「小田実との出逢い――推薦文にかえて――」を掲載しています。





作品案内

電子書籍版(全67巻)
オンデマンド版(全82巻)
2014年5月完結!
→版別の詳細を見る

文学者・思想家として活躍し、平和運動をしながらも膨大な作品群を遺した小田実の全小説32作品と代表的評論32作品を網羅!

→立ち読みは、オンデマンド版にてお読みいただけます。

※立ち読みをご覧いただくには、下のアイコンよりAdobe Readerをダウンロード、インストールしてください。

小説
明後日の手記/泥の世界

傷ついた魂の高校生群像を描いた、小田実17歳の処女作と、敗戦を抱きしめムーサ(詩の女神)に贈った「難死の思想」の短編小説。

わが人生の時

敗戦後の占領期、嵐の時代に遭遇した20歳の著者が、当時の若者たちの魂の彷徨と愛、闘いを描いた。青春の墓碑銘。

アメリカ

『何でも見てやろう』の姉妹編として書かれたフィクションの巨編。人間の性と人種差別問題とは何かを深く考えた作品。

大地と星輝く天の子

ソクラテスを裁いた古代アテナイの陪審員たちが主人公のこの小説は、善と悪が共存する現代社会を撃つ古い未来の長編。

現代史

日本が若かった1964年頃の社会風俗、国際関係、社会構造が、若きヒロインの視線を軸に描かれた"現代の『細雪』"。

ガ島

大阪弁ドタバタ喜劇の語り口の裡に隠された物語は、日米戦場の孤島ガダルカナルに眠る兵士の遺骨拾いへの旅であった。

冷え物

大阪の底辺に生きる「善良な」人たちのあいだにひそむ「差別」の心理と構造を描いた、1968年の「反差別文学」。

羽なければ

七十近くの老主人公と十六歳の岡本あつ子が繰り広げる奇妙な関係。人間のはかなさと出会いの尊さが切々とうずく名品。

列人列景

中年の主人公「タダの人」の眼で、人間にとって切実な原風景、愛、性、志、生老病死を魅力的な題名に込めて描く連作集。

円いひっぴい

庶民の中心をなす、保守的中間層の心理と感覚、倫理と思考をくらしの言葉、「ボヤキ万才」よろしく大阪弁で精密に描く。

タコを揚げる ある私小説

地球上の秩序からはみだし、「らしさ」からはみだす心優しき世界中の「途中者」たちのタメ息と感動が鳴り響く私小説。

HIROSHIMA

ジョウは、戦闘機乗員として対日戦に参加、撃墜され捕虜となり広島で被爆。英訳本、BBCラジオ劇にもなった衝撃作。

海冥

全ての戦死者の屍が眠る戦場の海。太平洋が著者に語った無数の、縄のようにもつれた「流民」の話が16の短篇となった。

風河

少女が見た昭和初期の大阪。朝鮮人医学生と日本人女学生の愛と、その破滅の物語。心を揺さぶる郷愁と時代への諷喩。

D/ベルリン物語

『D』は脱走兵の聖と俗、滑稽と悲哀の喜劇ロマン。『ベルリン物語』は壁の都での懐かしい幼少期の回想と家族の物語。

ベトナムから遠く離れて

豊満時代の虚栄と欲望が乱舞する一港都に、人は何のために生きているのかとベトナム戦争の影が語る記念碑的大長編。

民岩太閤記

大航海時代の文禄・慶長の役(秀吉の朝鮮侵略)の全過程を日本の少年トン坊とその妹ミン坊の眼で描く異色の歴史小説。

生きとし生けるものは

南洋出身力士を集め相撲のリーグ戦を夢みる老経営者。南の島でひと儲けを企むが結末で見るドンデン返し。痛快諷刺劇。

玄

自由の象徴「異装異者」を愛した私。二人が共鳴する戦争の記憶。ゲイ文化が写す、時代に翻弄される人間の悲しみと怒り。

大阪シンフォニー

大阪大空襲の焼跡の瓦礫の堆積には死者の魂がコヤシとなって詰っている。廃墟に立ち上がる少年たちの夢と冒険の交響曲。

XYZ

XYZ

「ベルリンの壁」を越え殺された主人公が、ナチ時代から古代トロイア戦争、メロスの虐殺まで体験し生き返る圧巻小説。

「アボジ」を踏む 小田実短篇集

古代ギリシャの葬送を彷彿とさせる川端賞に輝く表題作他、計七篇の短篇全体小説集。戦争、国境、漂泊、死を見つめる魂。

暗潮 大阪物語/玉砕

軍事色ただよう戦時下の大阪庶民の日常を鮮烈に描いた『暗潮』。おぞましき戦争の本質と無意味を描いた傑作『玉砕』。

さかさ吊りの穴 「世界」十二篇

世界の多くの国を歩き考えた著者が、65歳になって「さかさレンズ」を覗くごとく過去をはるかに見やる感動の短編12篇。

くだく うめく わらう

「人間の死は石膏の塊で、生は水の広がりだろう」。人の世の無常を、深い愛着をもって書き砕いた「震災文学」短編集。

深い音

阪神大震災後の孤独や悲しみを共有する者達が心を開き支え合う。人間の悔い、死者への向き合い方が滴り滲む長編。

子供たちの戦争

戦争による階級の逆転、強さへの憧憬は戦争文化を鼓吹し子供心を殺伐とさせる。子供たちの「15年戦争」を描く短編集。

終らない旅

人間の姿、愛の形を縦糸に、大阪大空襲、ベトナム戦争、9・11等の現代史を父から娘へ語りつぐ永遠の「哲学的小説」。

河

東アジアの近現代史という「河」に鳴り響く、人間の涙と血と愛の物語。六千枚に込めた、小田文学最後の未完成交響楽。

評論
何でも見てやろう

フルブライト留学生が、欧米・アジア22カ国を貧乏旅行した現代のオデュッセイア。本物の知性と勇気のベストセラー。

壁を破る

1962年から64年にかけて、日本が国際化に向けて外へ開こうとする時に多大な影響を与えた国際関係論。

日本の知識人

日本人自身が現代の日本をどう考えるかを書いた自己認識の書。他に類を見ない厚みと深みをもつ「日本論」。

戦後を拓く思想

本書にある「難死の思想」は、戦争を体験・体感していない人にも戦争の本質を想像力によって思想的に体験させてくれる。

平和をつくる原理

戦争に駆り出された人間は、被害者であることによって加害者となるという戦争のメカニズムをあぶり出した平和論集。

義務としての旅

一人の作家が、自ら拠って立つ平和思想に基づいてベトナム戦争をどう受けとめかねているか、その苦しみの中間報告。

世直しの倫理と論理

国家のしくみの中に否応なく巻き込まれながら巻き返す回路を、日常を生きつづける人びとの「現場」から解明した書。

状況から

1973年の世界状況の中で、虫瞰図の視点をもつ思想者が現代日本の「法人資本主義」と国家権力のしくみを考察する。

「鎖国」の文学

文学にとって大事なものは、私の「眼」と他者の「眼」をもつこと。1971年から75年まで書かれた独自の文学論。

「共生」への原理

太平洋の「どんづまり」から、「共死」の重い意味を抱きしめ、未来を拓く人びとを考察した、異者との「共生」への哲学。

「民」の論理、「軍」の論理

「軍」=「国家」の論理の壁の前で、「民」=「市民」の論理が恢復するには市民の「自立」と「自律」が肝要という政治学。

小田実 小説世界を歩く

漱石からジョン・オカダまでの小説を著者が一人の読者としてたっぷりと愉しみ、含味した文学論。

基底にあるもの

一九七四年から八〇年にかけて著者が「知る」という意味をめぐり、人びと、世界、ギリシャ古典と文学について考察。

「ベトナム以後」を歩く

ベトナム戦争終結後、約十年目にベトナムを歩いた。東西冷戦中、「惨勝」した国の抱える辛い戦後期を広く深く省察。

毛沢東

中国の歴史を変えた毛沢東の矛盾と実践を、少数民族や第三世界を含め、普通の人々の眼で考えた「人びとの毛沢東」論。

われ=われの哲学

「よりよい明日」のため、社会の問題を解決しようと互いを支え合う自立した市民の繋がりを平易な言葉で説く市民の哲学。

西ベルリンで見たこと 日本で考えたこと

近代国家成立以来、多くの点で相似する日独両国の歩みを、暮らしの目線から分析し弱者のための新たな方向性を示す。

オモニ太平記

日本と朝鮮半島の長くて重い歴史、非情な政治を、家族の温かい涙と笑い、希望、感動にのせて洞察した超傑作エッセイ。

「ベ平連」・回顧録でない回顧

「ベ平連」とは何か? 全国津々浦々に広まったこの運動の代表者自らが省察した思想的・哲学的言説が、重く眩しい。

 被災の思想 難死の思想

戦後日本の安全神話を最初に覆した阪神大震災。「人災」、「棄民」、「難死」を拒み、共助・共生社会を再興する指針書。

でもくらてぃあ

「デモクラシィ」と「でもくらてぃあ」は違う。「される」側の人間のあり様、意志に基本をおく「される」側の思想書。

これは「人間の国」か

大災害は全ての虚飾をはぎとり、本質を顕わにする。「大震災」以後、より広く深まった思考を土台に、現代日本を解剖。

崇高について

文学を志した十代後半から終生、力強く小田を支えた文学のよりどころは何か。人間の弱さを理解し、包容する文学論。

ひとりでもやる、ひとりでもやめる

世界から尊敬される日本の斬新な選択「良心的軍事拒否国家」とは? 付和雷同しない一人の市民から全てが始まる。

私の文学――「文」の対話

文学は作者と作品、読者と社会、世界との対話である。日本文学の枠を越えた世紀の異色対談。長編小説の魅力を語る。

戦争か、平和か――「9月11日」以後の世界を考える

「民主主義」と「平和主義」を車の両輪にして築いた戦後日本の繁栄と価値を世界史的視野で捉えた平和論。今、必読書!

随論・日本人の精神

近代から現代に至る日本人の心、精神の動きを深く捉え直してみると「刀を差さない心、精神」がなぜ重要か理解できる。

市民の文(ロゴス) 思索と発言1

阪神大震災や9・11以後、新しい歴史の分岐点に立って、自分や自分の国が世界史の流れのどの位置に立つかを見定める。

西雷東騒 思索と発言2

歴史から学び、「世の中の大勢にスンナリ身を任せない市民」をつくろう。混迷する21世紀の初頭に生きる私達の座標軸。

9.11と9条

歴史の分岐点に立ち、過去と現代の戦争を再考。1961年から2006年まで書いた平和論を著者自身が精選、集大成。

中流の復興

武器をつくらぬ、売らぬ平和主義経済で繁栄し、中流の暮らしを築いたことは日本の誇り。その価値がゆらぐ今の必読書。

生きる術としての哲学

古代ギリシャの修辞学を深く学んだ著者による慶應義塾大学経済学部「現代思想」講義録。「行動の中の哲学」のすすめ。

資料館

2000年までは著者自身の執筆によるもの。以降は『環[特集]われわれの小田実』(2007年藤原書店刊)の「年譜」を増補。

原稿用紙だけでなく、ノートにも書かれている自筆原稿や、絵や表などが随所に見られる創作ノート。適宜更新。

幼少期、高校時代から若き日のギリシアへの旅、ベ平連の集会、ベルリン、ベトナム各地やデモ行進まで、行動し続けた軌跡。

主に中学時代に書かれた詩。早熟な少年の思索に感性の鋭さがうかがえる。「駄目になったおれを見てくれ…」

『ベトナムから遠く離れて』(1991年講談社)の出版記念に、はさみこみの冊子に書かれた小説論。書影は第1巻のカバー表紙。

1995年1月17日阪神淡路大震災で被災した小田実に宛てて、3日後に書かれた。「小田さん、貴兄のために私はどうしたらいいのでしょう?」

小田実の“人生の同行者”であり、水墨画家でもある玄順恵氏が、ともに生きた小田実の作品の独自性、奥に秘められた著者の思いに迫る作品論やエッセイを掲載。夫とともに作家たちとの交友を通じて得た考察は、常にアジアを、そして世界を見据えていて、小田実の視点とも重なり合う。全集完結を記念して書かれた「『河』――小田実最期のエピック――」では、未完の作品『河』の題名の意味が解き明かされる。

初刊を含め、過去に刊行された収録作品の表紙の数々は、著者だけでなく装丁家、編集者の思い入れやその時代のにおい、勢いを垣間見せてくれます。全集収録作品82点の書影が勢ぞろい!! 60年近くにも及ぶ装丁の世界の変遷をお楽しみください。